茶香を選んで、部屋で焚ける。
壁も天井も竹
女性は浴衣を選べる。
仲居さんが、こんな細長くて狭い敷地に建てられるとは思ってなかった、という狭隘な土地のハンディをいかに克服するか、館内随所にその工夫がなされている。

廊下には壁を利用した浅い棚が至る所に設けられ、竹をふんだんに使って圧迫感を減らし、裏側に迫る崖を見せないように窓は全く無い。
これらによって狭さを感じさせない小粋な雰囲気を造り上げている。
施設名 : 竹と茶香の宿 旅館樋口  (宿泊日:2007.4.16)
所在地 : 江津(ごうつ)市
温泉名 : 有福(ありふく)温泉 
有福温泉 竹と茶香の宿 旅館樋口 (島根県)     
江津市は、島根県西部の石見地方に位置する「川と瓦と温泉の町」だ。

江津の名称は、中国山地を山陽側(広島県)から貫いて流れる数少ない川であり、かつ、中国地方最大の河川である江の川が、この市で日本海側に注ぐことに由来する。

古くから窯業が盛んで、釉薬瓦は全国生産の25%を占める。
島根県に入ると、艶のあるオレンジ系の瓦屋根を多く見かけるが、それが釉薬瓦だ。

また万葉の歌人・柿本人麻呂が、石見にあって妻と別れる歌と死に臨んで詠んだ歌が万葉集に残っていることから、市内には歌碑が数多く置かれている。

さらに地味ながら、温泉好きには、よく知られる有福温泉が湯煙を上げている。
江津特産の瓦
一部の温泉通には知られた有福温泉だったが、全国的に知名度が高まったのは、同じ石見地区にある温泉津(ゆのつ)温泉と共に、温泉教授・松田忠徳氏の「日本百名湯」に選考され紹介されてからだ。

私も温泉巡りを始めて間もなく、たまたま購入したこの図書で有福温泉を知った。
教授は「共同浴場」を残す温泉地を高く評価されるので、温泉好きなら垂涎物の外湯(複数)を持つこの2つの温泉地が選ばれたのだろう。

3年前、九州温泉旅行の最終日、中継地点として温泉津温泉に宿泊し、今回の同じ九州旅行の帰途には有福温泉を選んだ。

有福温泉は、三方を低い山に囲まれ、敬川(うやがわ)沿いの狭い斜面に、宿・外湯・民家がひしめき合うように建ち並び、間を狭い道や階段がくもの巣のように廻らされている。
住 所 島根県江津市有福温泉町695
電 話 0855−56−2111
交通機関 山陰道(江津道路)江津西ICから約3km
JR山陰本線江津駅から石見交通バス有福温泉経由浜田駅行きで30分、有福温泉下車すぐ
施 設(日帰り) 休憩所無し 駐車場(20台)
宿 泊 (平日 2人1室) 15,750円〜26,250円
料金は季節・曜日・人数などにより変更されるので、必ず下記HPで確認下さい。
泉 質 内風呂男女交代制2  露天風呂男1女1 貸切1 
適応症 不記載(理由は「温泉の基礎知識ー温泉の効能」参照)
入浴時間(日帰り) 平日のみ立ち寄り湯受付(要予約):8時〜22時  宿泊者:6時〜24時
定休日 無休
入浴料金 1,000円(ソフトドリンク付き)
入浴施設 内湯:男女各1 露天風呂:男女各1貸切風呂1
浴室備品(日帰り) シャンプー、ボデイソープ、ロッカー、ドライヤー
観光スポット (地元)石見海浜公園・島根県立しまね海洋アクアス・ゆうひパーク浜田・島根県石央地域地場産業振興センター・しまね お魚センター
石見銀山・日御碕・出雲大社・松江城周辺
お土産・食事 土産は当旅館で可 昼食は温泉街で(多分)可
近くの温泉 風の国温泉・湯屋温泉・美又温泉・旭温泉・石見温泉・温泉津温泉・湯迫温泉・三瓶温泉・湯抱温泉
江津市HP
観光協会HP
旅館樋口HP
http://www.city.gotsu.lg.jp/
http://www.gotsu-kanko.jp/
http://www.arifuku.com/
雑記帳 今般、石見銀山が世界文化遺産に登録された。
温泉津温泉がもろに恩恵を受けるが、有福温泉からでも1時間足らずの距離にあり、これから宿泊客も増加していくだろう。
データは変更されている可能性もあります。お出かけ前にご確認ください。
こうした地形から「山陰の伊香保」といわれるようになった、とガイドブックにはあるが、これは伊香保に少々失礼な誇大広告だ。
階段を登りつめた一番上には、全国の共同浴場から思い浮かべる姿とは全く異なり、大正・昭和初期の洋館の雰囲気を漂わせる「御前湯」(後日掲載)が周囲に異彩を放っている。

ここは1,300年以上の歴史を持つと言われ、代々、津和野藩主や浜田藩主が利用していた福の湯が、現在の御前湯の前身である。
温泉はいまも建物のすぐ脇から湧き出し、そのまま風呂に注がれていて、松田忠徳氏が絶賛する共同浴場だ。

全部で13の源泉は昔からの自然湧出だそうだが(日本百名湯)、現在の状況は定かではない。
御前湯の他に「さつき湯」「やよい湯」が斜面を下った場所にあり、その上、全部源泉が違うので、温泉好きにはたまらない湯巡りが楽しめる。
旅館樋口から見た御前湯、裏口から出ると目の前だ。
斜面の下の方の温泉街
素朴なさつき湯
特産の釉薬瓦を葺いたやよい湯
有福温泉には、中小の旅館が10軒ほどあり、温泉津温泉より規模はやや大きい。
その中で、創業100年を超える老舗の旅館樋口を選んだのは、次の理由による。
●九州方面長期遠征の最後の宿泊地で、10日間つきあってくれた家内のために、設備の良い宿を探したこと(ここは、平成15年6月に改装したばかり)。
●同行する愛犬のために敷地内に駐車場があること。
●どうしても入浴したい共同浴場・御前湯がすぐ近くなこと。


旅館樋口は、改修前は「有福観光ホテル樋口」だったが、全面改装を機に、「竹と茶香の宿 旅館樋口」と最近流行の小洒落た旅館名に改名した。


温泉街の高台にあり、道から急斜面の私道を上がった先にある。内装には旅館名の通り竹をふんだんに使用し、ロビーは照明を落としほの暗くして、和風モダンの雰囲気を演出している。

部屋のドアのステンドグラス
ライブラリー
同じく壁を利用した棚
廊下の壁を利用した浅い飾りだな
談話室
照明を落としたエントランス。ロビー・ラウンジは無い。
玄関前にはかがり火の演出
客 室
料 理
風 呂
部屋はタイプの異なる20室。すべての部屋に露天風呂(一部半露天風呂)と最新のトイレが付いている。
宿のホームページには、全部の部屋の写真と最新の料金が掲載されているので、これを見ながら予約を入れたい。
尚、2007年8月現在の宿泊料金は、平日・2人1室で15,750円〜26,250円(休前日は2、000円〜3,000円高い)となっている。

予約した部屋は「塵輪(じんりん)」。地元石見神楽の演目の一つで古代神話に基づく舞に由来する。(ちゃんと調べました)。

部屋の広さは約9畳(半畳ほどの琉球畳を敷き詰めてある)だが、ここでも敷地の狭さを解消するためか、室内には床の間、棚や広縁がなく、慣れるまでやや息苦しく感じる。
しかし、窓の外には広い木造のテラスがあって、そこに総檜の露天風呂がある。
旅館が高台にあるので見晴らしがよく快適だが、左右も同じような造りなので、入浴の音や会話が丸聞こえ、その点、少々難ありだ。

因みにトイレは最新のもので、自動開閉、座ると鳥の鳴き声が聞こえてきた。
今まで経験したことのない斬新な設計の部屋。DVD一体の液晶テレビが畳の上に置いてある。露天風呂に行くには、ワンステップしてから高い敷居を跨ぐのが年寄りには優しくない。
カギが2つ。これは何かと便利だった。
桧の部屋付き露天風呂
スタイリッシュな受話器
茶を焚く道具
壁をくり貫いた飾り棚
石畳の階段が多い温泉街だが、風情が増す。
料理は素晴らしい。近くに3つの漁港があり、そこで水揚げされた新鮮な、かつ高級魚を食材として用い、色とりどりの器に美しく盛り付けている。
夕食は部屋食、本来朝食も同じだが、特に頼んで食事処で頂いた。
因みに、夕食はもとより、朝食にまでお品書きがついていたのには驚いた。100数十軒を超える宿泊旅館の中で初めてのケースだ。料理に力を入れている証のように思えた。
朝食
甘鯛若竹蒸し
酢の物(平貝・蛍烏賊)
のど黒木の芽焼き
デザート
吸物(蛤桜餅)
前菜
島根牛陶板焼き
日本海の幸姿盛り
先付け(簾籠二種盛り)
風呂は男女別の内湯と露天風呂があるが、男性用は写真の通り、タイル張りのほぼ同じ造り、同じ大きさである(他に貸切1)。
ごく平凡な風呂だったので、写真も2,3枚しか撮影しなかった。

温泉は、弱アルカリ性の単純温泉でサラリとしている。
ガイドブックに拠れば、風呂は「一部かけ流し又は掛け流しと循環の併用」の印が付いている。
そんなわけで、宿の風呂は素っ気無いものだったが、それにもかかわらず、こと風呂・温泉に関しては大きな不満は全く残らなかった。その理由は2つだ。

1つは、部屋に桧造りの露天風呂が付属していたこと。
2つ目は、これが最大の理由だが、外湯の「御前湯」(記事追って掲載)に入浴できたことだ。
昭和初期に建設された館内外と浴室・風呂のレトロな雰囲気、それにすぐ裏側から湧出する温泉のやさしい肌触り。
鈍感な私には、松田教授が年に1回は通うという「絹のような感触の極上湯」までの感覚は得られなかったが、それでも館の雰囲気と合わせ、「ああ、有福に来て良かった」とつくづく思った。
同じ石見地区の温泉津温泉と並んで、日本百名湯(松田忠徳教授)に選ばれた有福温泉にあって、女性好みの宿に変身した旅館樋口に宿泊した。
有福温泉入口に張られた横断幕。温泉が涸れてきているのだろうか、風呂の数が多くなってきて湯量が不足してきたのだろうか。
平日2人1室 1人21,000円(税込)
●御前湯