奈良町散策 (奈良市
奈良市奈良町という住所はない。

猿沢池の南、世界遺産であり、かっては東大寺に次ぐ威勢を誇っていた元興寺の旧境内一帯を、地元の人たちは昔から奈良町と呼んでいた。

あたりには江戸から明治にかけての町家が多く残り、小路に沿って老舗の店、レトロな食事・喫茶処、格子戸の家、歴史を語るミュージアム等が点在している。

国宝・重文の建築物・仏像などを有する元興寺・十輪院などの寺院などを合わせて、ゆったりと半日をかけて散策したい町並みだ。
●猿沢の池
最寄の近鉄・奈良駅に到着したら、先ず構内にある観光案内所で、必要な観光マップ等を手にいれ、目的地をその場で確認しよう。
近鉄奈良駅前の小さな広場に立つ行基菩薩像の前を通って、アーケードが覆う商店街・東向(ひがしむき)通りを南下すると、JR奈良駅から東にのびるもう一つの商店街・三条通と交差する。そのまま老舗が並ぶ餅飯殿(もちいどの)通りを南に進むのも楽しいが、ここでは左折して50mほど進み猿沢の池に出る。
もう一方のルート・餅飯殿通り
元々は興福寺が秋の彼岸などに捕らえられている生き物を買い集めて逃してやる放生会(ほうじょうえ)を行う放生池。
池の南側から見ると興福寺の五重塔が池面に映り、奈良を代表する風景の一つになっている。


池の北西には采女(うなめ)神社がある。
普通は鳥居に対して南に向かう社殿が西を向いている奇異な様式だ。これには采女(宮廷の女官)の悲話が残る。
采女は天皇の心変わりを恨んで猿沢の池に身を投げた。、彼女の霊は、入水した池を見るのが辛くて、自分を祀る社殿を反転させて池を見られなくしたそうだ。
興福寺・五重塔を背景にする猿沢の池。毎年、中秋の名月に、雅楽の調べにのって、2隻の竜頭舟がミス采女や稚児を乗せて、池を周回する采女祭が行われる。
猿沢の池の南西端から細い道を南に進む。
この道は、古くは上ツ道(上街道)と呼ばれて、長谷寺詣でやお伊勢参りで賑わった。
200mほどで奈良町に入る。奈良町は、もともとが元興寺が荒廃して、その境内に人が住み始めて発展した地域だ。

町は元興寺を中心にして、東西・南北、約500m四方の狭い地域に見所が集中している。要所要所には道標が整備されているので、気ままに散策しても楽しいが、ガイドブックでは次のようなルートが例示されている。

近鉄奈良駅→なら工芸館→奈良町物語→元興寺極楽坊→今西家書院→十輪院→ならまち格子の家→庚申堂→奈良町資料館→近鉄奈良駅

「今御門町・中院町」といった元興寺ゆかりの町名が多い。
● 元興寺(がんごうじ)極楽坊
「本堂(極楽堂・国宝)」は鎌倉時代の再建で、間口6間・奥行6間、柱間が中央が広く両側が狭くなる。
この寺は、蘇我馬子が明日香に法興寺(現 飛鳥寺)を建立し、平城遷都にともない、これを平城京に移建して寺号を元興寺に改めたものだ。かっての元興寺は南都七大寺の一つで、敷地は2000町歩と定められ、東大寺の4千町歩に次いで広かった。
寺宝としては、かって建っていた元興寺五重塔の模型と伝えられる高さ5mの「五重小塔」があり、、国宝で奈良時代の製作である.
その他、「木造阿弥陀如来坐像」「木造弘法大師像」「木造聖徳太子立像」(いずれも重文)などが陳列されている。
「禅室(国宝)」は奈良時代の僧坊の遺構で、鎌倉時代に再建された。
●町のミュージアム
● 十輪院
元興寺の前の道を100mほど南に進むと、十輪院(真言宗醍醐派)への道標が出てくる。
御霊神社からほんの少し東にあって静かな佇まいを見せている。

この寺はもともと元興寺の一坊で、8世紀末に建立されたもの。
道路に面した切妻造りの南門は鎌倉期のもので重文、ブルーノタウトが賞賛したと言う寄棟造りの優美な本堂は国宝である。

この他にも不動明王・二童子立像、それに花崗岩で造られ、中に石仏などが多数彫られた石室・石仏龕(せきぶつがん)は何れも重文である。

尚、この寺は珍しく閉館日(月曜日)があるので要注意。
奈良町には、小さなミュージアムが数多くあり、これらを見て回るのが楽しい。

・なら工芸館(墨・筆・赤膚焼・奈良晒などを陳列)

・奈良町物語館(築100年の町屋を公開)

・今西家書院(書院は重文)

・奈良町格子の家(江戸末期の町屋を再現している)

・奈良町資料館(古美術品のコレクション公開)

・奈良市立資料保存館(古文書・絵図などを公開)

・奈良市杉岡華遁書道美術館

・時の資料館

・奈良オリエント館

・奈良町新興館

江戸・明治時代にかけての絵看板や古美術品が所狭しと並べられていて楽しい(無料)
築100年の町屋を、奈良町の情報発信基地として公開している(無料)
● グルメ・カフェ・ショッピング
時が止まったような奈良町には、昔ながらの町家を改造した食事処・カフェ・店舗があちらこちらに点在している。
狭い路地に構えたこれらの店に立ち寄るのは、奈良町散策の大きな楽しみだ。
吟松・奈良町店。本店は高畑町にあり、奈良の蕎麦屋といえば、必ず紹介される。
この店構えでカフェ
さつま焼(菓子)一筋の春日庵
老舗の砂糖専門店「砂糖傳(さとうでん)
砂糖傳の「御門米飴」(1,050円)
大正10年創業の「吉田蚊帳(よしだかや)
享和元年(1801年)に建てられた町屋の「サマサマ」はアジアンテイストの店。
● 身代わり申(猿)
奈良町の民家の軒先にぶら下がっている「身代わり申(猿)」。町中にある庚申堂のお使いで、災難を代わりに受けてくれるという。(奈良町資料館で実演・販売)
一家の人数分だけ掛けるのが慣わしだ。写真は奈良町資料館。
奈良町資料館
奈良町物語館
奈良工芸館
一刀彫・筆・墨・赤膚焼などの名品が陳列されている。
奈良町格子の家
奈良町のシンボル・格子の家はあちこちで見かける。
蚊帳生地で作った蚊帳のれんは圧迫感がなく簡単に間仕切りができ、洋風・和風どちらの部屋にも似合う。(5,500円位〜)
「老舗・御菓子司なかにし」の奈良町だんご。